新聞記者による取材の内幕モノは自画自賛になりがちだ。<その時記者たちが動いた!>と帯に謳うこの本にもそのケがないとはいえないが、まー許して進ぜよう。『汚れた桜』の副題は「『桜を見る会』疑惑に迫った49日」。安倍晋三首相主催の「桜を見る会」報道をリードした毎日新聞「桜を見る会」取材班による、11月から12月末までの記録である。

 ご存じのように、この件がにわかに注目を集めたのは2019年11月8日、参院予算委員会で共産党の田村智子議員が「桜を見る会」について質問したことだった。11日、<人数をかけてガーッとやったほうがいいと思います>の一声で毎日新聞東京本社に特別取材班が立ち上がる。メンバーは夕刊編集部出身の江畑記者、政治部出身の大場記者、西日本新聞から毎日に転職した吉井記者の3人。

 公金の私物化、明細書のない前夜祭、消された名簿、反社会的勢力とのつながり、官房長官や首相の不誠実な会見……あまりに論点の多い事件だが、興味深いのはこの取材チームが政治部でも社会部でもない統合デジタル取材センターのメンバーだったことだろう。森友・加計問題などと比べても、この事件は<あらゆる場面でSNSが重要な役割を果たしてきた>。これは事実で、桜については既成のメディアよりSNSの情報のほうがはるかに早くて多様だった。田村議員の質問もSNS上で発信される情報を丹念に集めた成果だった。毎日の記事のフットワークのよさは、記者クラブに所属しない記者たちの<SNSを通じて届く人々の声を背に>した記事づくりの結果だったのだ。

 首相と記者の食事会を欠席したことで毎日はSNS上で賞賛され、会見での追及が甘ければやはりSNS上で<中学生記者か!>などのツッコミが入る。そこでは記者も容赦なく衆目にさらされる。<本書は世の中を揺るがしたスクープの回顧録ではない。生々しい政界の裏話でもない>という一文に、伝統的な手法に固執しない記者たちの自負がにじむ。報道の新しい可能性を感じさせる本である。

週刊朝日  2020年2月28日号