第2次世界大戦末期のハンガリーには、ユダヤ人の没収財産を移送するために使われた「黄金列車」が存在した。本書は史実をベースに、「ユダヤ資産管理委員会」に所属する役人たちの、移送における悲喜こもごもの行動を描く。

 物語の中心となるのは大蔵省の官吏バログ。彼は財産の管理に加え、列車内の食料や燃料の管理なども担当し、上司による没収財産の横領にも目を光らせる。敗戦の色が濃くなり、任務の意義も見えづらくなる中、ユダヤ人の財産を守るという自身の職務をこなしていく──。

 移送の過程で、今は亡き妻やユダヤ人の友人に思いを馳せつつ、あくまでも「役人」としての矜持を全うするバログ。それは正義だったのか、悪だったのか。戦争を記録するのみならず、極限下に置かれた人間の可能性を問う力編だ。(若林良)

週刊朝日  2020年2月28日号