若い人にどうやって本を読んでもらうかは出版界にとって死活問題だ。「17歳の特別教室」のキャッチフレーズは「大人前夜のきみたちへ。学校では教えてくれない本物の知恵を伝える白熱授業」。人気作家らによる、実際の講義を書籍化したシリーズだ。

 京極夏彦『地獄の楽しみ方』なんて本も。<僕がこれから話すことは、役に立つことではありません。/ただし、役に立てることはできます>。そんな一言ではじまる授業の中身は悪霊との付き合い方ではなく、いかにして嫌なことを回避するかという知恵である。
 たとえばSNS上に何かを投稿する。本人は気の利いたことを書いたつもりなのに、なぜか炎上した。それは書いたものをよく考えずにパーッとアップしちゃうから。誤解を避ける工夫もせずに炎上しないわけがない。<十年前の数十倍、数百倍の慎重さと配慮が求められるんですね>。手紙の時代は夜書いたラブレターを朝読んで破り捨てたりしてたのだ。<言葉は通じないんです。/だから、まずそれを承知で使いましょう>

 入試から選挙まで人は勝敗にこだわるが、では絶対に負けたくない人はどうするか。<絶対に勝負しなきゃいいんです。そんな変な土俵に上らなきゃいいんです>。選挙に勝つ、受験に勝つ、自分に勝つ。全部おかしい。勝った負けたなんて言葉を簡単に使わないこと。自分に負けたなんて言っちゃったら、本当にそうなってしまう。<言葉は危ないものなんです。リスキーなんですよ>。ことに「死ね!」などの呪いの言葉は禁物である。<呪いは効きますから。効いてから「ヤバい」と思っても、もう遅いんです>

 処世術的な人生論とは異なる言葉指南。<過去、起こされた数多くのいさかい、争い、戦争の多くが、言葉の行き違いから生まれてきたことを忘れてはなりません>と作家はいうのだ。嫌なことを避けるには、語彙を増やし言葉を工夫するしかない。<この世の中は地獄です>。しかし<極楽よりも、地獄のほうが面白いんです>。17歳の心にはどう響いただろうか。

週刊朝日  2020年2月21日号