「真面目にちゃんと営業してまわれば、一日一回必ずいいことがある」。東京・吉祥寺のひとり出版社「夏葉社」の創業から10年の歩みや、日々の随想を綴ったエッセイ集。

 著者は教科書会社の営業マンだった頃、学校の職員室の前で、冒頭の言葉を何度も自分に言い聞かせていたという。尊敬する先輩からはこんな言葉も教わった。「怠けないこと。ずるをしないこと。そうしていれば、なんであれ、結果はでる」。これがその後の人生に息づいている。

 近年ひとり出版社が増えているが、初版「2500部」と決め、絶版本の復刊に力を注ぐ同社は稀有な存在。編集経験もツテもない33歳の著者が、面識もない和田誠に最初の本の装丁を頼みにいく。「いくら払えばいいか」と思案しながら依頼の手紙を書く章からは著者の鼓動が伝わってくる。(朝山実)

週刊朝日  2020年2月14日号