エドワード・スノーデンが2013年に行った告発は、世界を震撼させた。なにしろ米国政府が、国内だけでなく世界中の電話やネットを監視しているというのだから。しかも当時、スノーデンは米国家安全保障局(NSA)の職員だった。

『スノーデン 独白』は、彼自身が生い立ちから現在までを記した本である。米国の諜報業界事情や、なぜ告発に至ったのか、そして現在の日常についても書かれている。
 彼は幼いときから機械に関心を持ち、コンピュータやネットに熱中した。彼は自分ではそう書かないが、天才児だったのだろう。13歳のとき、原子力研究所のサイトに脆弱性があるのを発見して、通報したこともある。

 国家の最高機密について告発したのだから、スノーデンは反米的な思想の持ち主かと思いきや、逆だ。軍人一家に育ち、強い愛国心を持っている。9・11同時多発テロ事件のあと、陸軍に入隊して中東派遣を希望したほど。

 ところが訓練中に大怪我をして、その夢はついえる。他の形で国に奉仕するには、と考えて思い至ったのが、得意のコンピュータ技術を活かすことだった。以降、時には自治体職員、時には民間企業の社員を装い、CIAやNSAの局員として働く。

 昇進してさまざまな機密に触れ、政府が国民を監視しているということがわかった。その衝撃は大きかった。彼の告発は愛国心ゆえのものだった。政府が国民を裏切ったのだ。「かつては政府のために働いていたけれど、いまは社会のために働いている」と本書冒頭で彼はいう。この二つは違うものなのだ。

週刊朝日  2020年1月31日号