サザビーズのオークション会場で落札された瞬間、シュレッダーで作品が細断された事件などで一躍その名が知られるようになった正体不明のアーティスト、バンクシー。

 本書は、ブリストルのグラフィティ・ライターとして活動を開始したこの人物が、反戦などをめぐって次第に政治色を帯び、活動範囲を広げながらゲリラ的な大規模プロジェクトにまで身を乗り出していった軌跡を丁寧に辿っている。謎が多いとされる人物だが、判明していることも意外に多く、むしろ受け手こそが謎を謎のままにしておきたがっていることがわかる。

 オークション制度に対する反発と、それすら商業化してしまう資本主義とのイタチごっこに、アートとは何かという深遠な問いが内包されていることを窺わせるバンクシー入門書。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年1月31日号