初版本のコレクターとしても知られる著者が、夏目漱石の直筆を含む貴重な資料等をいかに入手したか、その過程を赤裸々に明かしている。

 書簡や反古原稿も含め、すでに全集にあらかた網羅されて開拓の余地がないかに見える漱石だが、ネット古書店の普及をきっかけに、新出資料を発掘しようとする熱意が蘇ったという著者。漱石の署名がある絵葉書一枚から背景のドラマを探ったり、思いがけず入手できた資料が新出であるかどうか裏を取ったりするくだりは、コレクターとしての胸躍る過程を追体験できるようで楽しい。

 そうした探求の狭間から、知人や弟子への気遣いなど、漱石特有の義理堅さが瞥見されるのも興味深い。著者の発掘によって日の目を見た、現時点で全集未収録の談話録も全文掲載されている。漱石ファン必読の書。(平山瑞穂)

週刊朝日  2019年12月20日号