<日本にはかっこいい女性のロールモデルがいない。本当だろうか?>。それが著者の問題意識。伊藤春奈『「姐御」の文化史』は江戸から明治・大正・昭和までの娯楽作品などを通し、女性のジェンダーロールを逸脱した強い女性像を追った異色の文化史である。

 意外な指摘の数々がおもしろい。たとえば上州名物として知られる「かかあ天下とからっ風」。上州(群馬県)は江戸期から養蚕が盛んな地域だったが、農家の副業である養蚕はその担い手である女に一定の現金収入と発言権をもたらしたという。なかには養蚕の技術と経営権を手にして一家の主導権を握る女性までいたそうだ。幕末の博徒・国定忠治を逃走中にかくまった菊池徳もそんな女性で、映画で拳銃をぶっ放したりする姐御・お品のモデルも徳だった。

『とりかへばや物語』の例もあるように、日本にはもともと男装した女性の文化がある。宝塚しかり女剣劇しかり。昭和の大物歌手というイメージの強い美空ひばりも、90本前後のチャンバラ映画でしばしば少年役を演じており、20代前半になると、森の石松や弁天小僧など本物の男を演じて、若い女性客をとりこにした。

 そして任侠映画『緋牡丹博徒』シリーズの主人公・お竜。藤純子(現富司純子)演じるお竜は<戦闘力、啖呵、クールなルックスと三拍子そろったスター姐御>だが、「女を捨てた」と強調される半面、「女が女を救う」という女性解放っぽい作品も制作されている。

 とまあいうように、次から次へと多彩な「姐御」が登場する。その分、個々の掘り下げがやや足りないかなという印象はあるものの、姐御とは<日本の伝統的なフェミニストである>という姿勢が一貫していて気持ちいい。

<日本にもかっこよくて、見る人の心を熱くしてくれるような女性は「むかしから」いた。しかも、男女世代問わず人気を集めてきた>。それを抑圧したのが明治の良妻賢母教育である。<自らの強さを、てらいなく弱者救済に使える者こそが、姐御>。近世近代の女性を見る目がちょっと変わる。

週刊朝日  2019年11月29日号