政府は65歳までの雇用を義務づけている高年齢者雇用安定法を改正して、70歳まで引き上げようとしている。人生100年時代なんていうけれども、健康寿命の平均は70歳そこそこ。身体が動く限りは働き続けよ、ということなのか。老後が怖い。

 柏耕一『交通誘導員ヨレヨレ日記』の表紙には<当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちます>というコピーがある。1946年生まれの著者が、道路工事や建設の現場で、歩行者や自動車を誘導する日々を描いたエッセイである。ユーモラスな文章が、かえって現実の過酷さを際立たせる。

 著者の本業は編集者・ライターだが、編集プロダクションの経営に失敗し、交通誘導員として働くことになった。人手不足はこの業界でも深刻で、高齢者も大歓迎。著者が所属する会社では70歳以上が8割で、最高齢はなんと84歳だという。

 誰でもできると著者はいうけれども、けっして楽な仕事ではない。とにかく野外に立ち続けていなければならないのだ。真夏の路面温度はいかほどか。トイレにも行けない、水も飲めない。彼らは命を削って働いている。

 現場は社会の縮図だ。ウソをついて通り抜ける人、なんでこんなところで工事をするのかと誘導員に文句をいう人、理不尽なことが多い。しかし住民とのトラブルは警備会社がもっともおそれることなので、誘導員はひたすら低姿勢を貫く。路上に「敬老」の2文字はない。

 好きで働いている人もいるだろうが、経済的理由で働かざるをえない人も多いだろう。高齢者にこんな過酷なことを迫る社会は真っ当か?

週刊朝日  2019年11月22日号