巨人の星」の星一徹を思わせる不器用な父親のことを、娘の視点で振り返る漫画だ。

 鉄工所の社長だった父と母、姉妹たちで家族旅行へ。お膳に並びきらない旅館のご馳走を前に「大丈夫かな」と著者が目を細めるシーンがリアル。幸せな時間を過ごして帰宅すると、工場はもぬけのから。社員たちは夜逃げし、軌道に乗りかかった工場は倒産。一家の苦難が続く。

 子供時代、親に捨てられた父が、「居場所」を与えてくれた用務員さんにお礼を言いたいと、晩年に夫婦で会いに行く逸話にはグッとくる。一方、息子に社長を譲った後も工場に現れては疎まれる「困った親父」ぶりも描かれ、父親ってそういうものだよなと頷いてしまう。昭和の風景とともに読者の胸にも「なくしもの」の意味が重層的に迫ってくる作品だ。(朝山 実)

週刊朝日  2019年9月27日号