1950~60年代、海外で多くの映画に出演、ヨーロッパでは特に人気が高かった「日本初の国際女優」谷洋子。本書はフランスを拠点に、「クレイジー・ホース」「カジノ・ド・パリ」でのショーから映画へと転身した女性の生涯を、多くの証言とともに追う。この人の背景には、第2次世界大戦が、戦後が、欧米と日本の違いが、生まれた環境があり、さまざまな交友があった。

 著者は歌手で日仏映画の研究家。2国の往来で体感したことが、谷洋子と交差し、客観的に人物を記述するのではない、共振とも呼ぶべきものが浮かびあがる。

 こういう女性がいた、との驚き。なぜ知らなかった、忘れていた、との疑問も抱く。情報の洪水のなか、わたしたちは肝心なものを気づけないまま日々を過ごしていないか──そんな不安もまた。(小沼純一)

週刊朝日  2019年9月20日号