サイモンが死んだ。ぼくの兄が死んだのだ。心が麻痺すると涙は出なくなる。それは「ヘビの形と音を持った病気」なのだと19歳になった主人公のマシュー・ホームズは、自らの病状を説明する。これは彼の物語であり、成長の記録を描いた小説だ。

 統合失調症の治療の一環で、日々の出来事や心の内をタイプライターで綴ることで進む本作は、「物事すべてにたくさんの意味を見つける人間」と主人公が自己分析している通り、細やかな情景描写が特徴的だ。彼の耳に「ぼくを忘れないで」と、在りし日の笑顔をたたえた兄の声が響く。水の中、ベッドの下、蝋燭の炎の中、兄はどこにでも存在した。彼の姿を探すうちに、虚構と現実の境が徐々に薄れていく。青年期の心の葛藤や移ろいを、独白の文章で丁寧に描き出す著者のデビュー作。(二宮 郁)

週刊朝日  2019年9月13日号