書評『ぼくを忘れないで』ネイサン・ファイラー著/古草秀子訳 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《話題の新刊 (週刊朝日)》

ぼくを忘れないで ネイサン・ファイラー著/古草秀子訳

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二宮 郁書評#話題の新刊

ぼくを忘れないで (海外文学セレクション)

ネイサン・ファイラー,古草 秀子

978-4488016715
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 サイモンが死んだ。ぼくの兄が死んだのだ。心が麻痺すると涙は出なくなる。それは「ヘビの形と音を持った病気」なのだと19歳になった主人公のマシュー・ホームズは、自らの病状を説明する。これは彼の物語であり、成長の記録を描いた小説だ。

 統合失調症の治療の一環で、日々の出来事や心の内をタイプライターで綴ることで進む本作は、「物事すべてにたくさんの意味を見つける人間」と主人公が自己分析している通り、細やかな情景描写が特徴的だ。彼の耳に「ぼくを忘れないで」と、在りし日の笑顔をたたえた兄の声が響く。水の中、ベッドの下、蝋燭の炎の中、兄はどこにでも存在した。彼の姿を探すうちに、虚構と現実の境が徐々に薄れていく。青年期の心の葛藤や移ろいを、独白の文章で丁寧に描き出す著者のデビュー作。(二宮 郁)

週刊朝日  2019年9月13日号


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