書評『未和 NHK記者はなぜ過労死したのか』尾崎孝史著 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《今週の名言奇言 (週刊朝日)》

未和 NHK記者はなぜ過労死したのか 尾崎孝史著

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斎藤美奈子書評#今週の名言奇言

まつりさんのことを伝えてるけど、うちらも一緒なんだよ

 NHKの記者だった佐戸未和さん(31歳)が死亡したのは2013年7月24日ごろ。6年前の参院選が終了した3日後だった。しかし、電通の高橋まつりさんの過労自殺に比べると、この件について記憶している人は少ない。いったいなぜだったのか。尾崎孝史『未和 NHK記者はなぜ過労死したのか』はこの事件の謎に迫った驚愕のノンフィクションだ。

 本書で著者が(そして未和さんの両親が)厳しく問うている問題は二つある。ひとつはもちろん、人を死に至らしめるほどに過酷な働き方だ。酷暑の中、6月の都議選と7月の参院選をかけもちで取材していた佐戸記者の場合、亡くなる2カ月前の時間外労働時間は188時間4分、1カ月前は209時間37分。厚労省が過労死ラインと定める月80時間をはるかに超えている。14年5月には労災の認定が下りたが、遺族の悲しみが癒えるわけではない。

 もうひとつの問題は、NHKの体質にかかわる。16年から17年にかけて、NHKは過労死の問題を何度も番組で取り上げていた。「週刊ニュース深読み」でも「あさイチ」でも特集した。だがそこで佐戸記者の過労死にふれられることはなかった。「遺族が公表を望んでいない」という理由を聞いて両親は愕然とする。そんなことは一言もいっていない。佐戸記者の死から4年後の17年10月、ようやくNHKはこの件を公表したが、午後9時のニュースが報じた時間は2分16秒だった。

 NHK総合テレビが高橋まつりさんについて報じた回数は85回。佐戸記者についてはわずか7回。恐るべき保身と隠蔽体質。<働き方改革実現に向け世論を喚起するための材料をさがしていた政府・厚労省は、当初、NHK記者の過労死を目玉にしようとしていた>が、遺族が騒ぎにしたくないという情報が入ったので<ターゲットをNHKから電通に切り替えた>と語った記者もいた。<まつりさんのことを伝えてるけど、うちらも一緒なんだよ>とは別のディレクターの言葉。これがNHKの実態かと思うと目の前が暗くなる。

週刊朝日  2019年7月19日号


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