流れてきた大きな桃に、おばあさんが包丁を入れると、中の桃太郎は熟れすぎて腐っていました。あるいは、おばあさんの力が入りすぎて、桃太郎まで真っ二つに切断してしまいました。ぼくが若い頃に流行った昔話ジョークである。バリエーションとして竹取物語編もあった。

 青柳碧人の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』も同様の昔話パロディかと思いきや、ひと味違う。題材は、一寸法師に花咲か爺、鶴の恩返し、浦島太郎、そして桃太郎。オリジナルのストーリーを下敷きにして、ミステリーの短編に仕上げているのである。その謎解きはまるで本格推理……とはホメすぎだが、けっこう面白い。

 たとえば一寸法師。なんと彼は鬼退治の日に人を殺していたというのである。というか、殺人事件のアリバイ工作のために鬼退治をしていたのだ。あの打ち出の小槌を使って、身体を自在に拡大&縮小させながら。完璧と思われた一寸法師の企みが、なぜバレたのかというと……。

 あるいは花咲か爺。枯れ木に花を咲かせたあの爺さんが殺される。現場には爺さんのダイイング・メッセージが残されている。爺さんを殺した真犯人は……。

 読んでいて痛感したのは、キャラクターの強さである。現代の文学で一寸法師や浦島太郎に匹敵するヒーローはいない。しかも、昔話は誰もが知っているから、いちいち設定や状況について説明は不要だ。幼なじみか遠い親戚が活躍している気分なのだ。「知ってる、知ってる」「わかる、わかる」という読者の声が聞こえてきそう。書名とカバーイラストも秀逸だ。

週刊朝日  2019年6月21日号