今年の本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの『そして、バトンは渡された』の主人公は、森宮優子。どこにでもいそうな17歳の女子高生なのだが、彼女には父親が3人、母親が2人いる。これまでに苗字は3回、家族の形態は7回も変わってきた。
 どうしてそんなことになったのか?

 気になる経緯は、優子の現在の暮らしぶりの合間にぽつぽつと回想されるため、すんなりとは分からない。この構成の巧さに焦らされながら読み進めるうちに、子ども側の彼女がどんな思いで生きてきたかは、よく理解できる。当然、新しい親に緊張したり、仲良くなった人との別れを悲しんだり、辛い経験は重ねてきた。しかし、<どれも耐えられる範囲のもの>だったと彼女は述懐し、<自分が今いる場所で生きていくしかないのだ>という諦観に辿りつく。

 優子の内面を知る一方で大人たちの事情がわかってくると、読者は、彼女がそれぞれの親たちにいかに愛されてきたか知ることになる。現在、二人きりで同居する森宮壮介はその象徴で、何事も娘を最優先にして日常を過ごしている。
<自分より大事なものがあるのは幸せだし、自分のためにはできないことも子どものためならできる>

 森宮の、ときに過剰なまでの愛情を受けながら優子は進学し、就職して結婚へと向かう。そして、血のつながりや共有した時間よりも大切なものを、知ることになる。

 身近な人との関係性が幸福の源であることを確認させる、快心のファンタジー。タイトルの意味が判明するラストは、不覚にも涙ぐんでしまった。

週刊朝日  2019年5月17日号