メディアミックスと聞くとここ数十年の話に思われるだろうが、太平洋戦時下に国が強力に推進したメディア戦略があったと聞いたらどうだろうか。

「翼賛一家」という題名のマンガが存在した。内容は取るに足らないのだが、大政翼賛会が著作権を握り、同一キャラクターの設定で全国紙や雑誌で同時に掲載され、舞台、落語、レコードにも展開された。その展開は台湾、上海、満州にも及んだ。

 著者は当時の資料を丹念に調べ、「翼賛一家」に手塚治虫や長谷川町子も参加していたことなどを掘り起こす。長谷川が「アサヒグラフ」に描いた「翼賛一家大和さん」と「サザエさん」の類似性にも筆は及ぶ。我々が戦後民主主義の象徴と捉えていた「家族の日常」の光景が実は戦前と地続きである事実にはただただ驚くはずだ。(栗下直也)

週刊朝日  2019年4月26日号