平成の閉幕まで1カ月を切り、書店は平成回顧本でいっぱい。もっと時間がたたないと、全体像を俯瞰するのは難しいと思いますけどね。その点、この本の趣向は少しちがう。『平成遺産』はへそ曲がり(?)ばかり8人のエッセイと写真を集めたアンソロジーだ。

<私は8歳のころ、阪神淡路大震災で被災している>と書くのは詩人で作家の最果タヒ。13年後、彼女は現代詩の賞を受賞し、「詩の中の崩壊の描写は震災のことか」と質問されて不快になる。<あなたは、私のことを、何も、知らないですよね?><まるで、無数にあった個人的な痛みを、くるっとよくわからない風呂敷でまとめられたようで、不快だった><ほっといてくれ! デリカシーがない! と叫びたかったのだ>

 平成6(1994)年、女子高生ブームの頃に高校1年生だった漫画家でエッセイストの田房永子は<「女子高生」の扱われ方にものすごく違和感を持っていた>。彼女が告発するのは当時の言論人たちのいい気な言いぐさだ。援助交際もブルセラショップも大人の陰謀だったのに<女子高生がオヤジ相手にあくどく商売をしているかのように、見ている。そもそも子どもと大人は対等ではないんだから、金の絡む関係になって対等になれるはずがない>。

「震災」も「女子高生ブーム」も、いわば負の遺産である。そしてさらにはこんな遺産も……。

 保育士でライターのブレイディみかこは英国在住で平成の大部分、日本にいなかった。だが「規制緩和」と「清貧」が流行語になった平成5(93)年のことは覚えている。<「規制緩和」はネオリベへ、そして「清貧」は自己責任文化へと一直線でつながっており、現在の日本に噴出している諸問題の発端がここにあるではないか>

 平成28(2016)年、20年ぶりに日本に滞在した彼女は祖国が成長していないことに驚く。<わたしが日本にいた頃と物価も賃金も変わっとらんやんけ>

 経済の停滞と格差を引きずって突入する令和。ほんとはしみじみ回顧してる場合じゃないのかも。

週刊朝日  2019年4月26日号