2003年、滋賀県の病院で男性患者の人工呼吸器のチューブを抜いたとされ、殺人罪で懲役12年が確定。服役後も無罪を主張していた元看護助手・西山美香さんの再審開始が、先日、事件発生から16年ぶりに確定した。

 くり返される冤罪。里見繁『冤罪 女たちのたたかい』は4人の女性(犯人にされた2人と、逮捕された男性のために闘った2人)を追ったノンフィクションだ。

 夫を殺害した容疑で逮捕され、懲役13年を言い渡された「徳島事件」(1953年)の冨士茂子さんの場合は、夫が営む電気店の2人の店員(16歳と17歳の少年)の偽証が有罪の決め手となった。「夫婦喧嘩を目撃した」という彼らの証言は、検察の執拗な追及で捏造されたものだった。再審請求は6次にわたり、85年に無罪判決が出たが、冨士さんは無罪を確信しながら79年に亡くなっている。

 保険金目当てで自宅に放火し、娘を殺害したとの容疑で逮捕された「東住吉事件」(95年)の青木惠子さんの場合は、共犯とされた内縁の夫の大量の自白が有罪の根拠とされた。最高裁で無期懲役が確定したのは2006年。だが弁護側の燃焼実験で自白の信憑性が疑問視され、12年に再審開始決定。2人の無罪は16年に確定した。

<狭い取調室の中で手練れの捜査官にかかれば「人は、ほぼ確実に嘘の自白をする」>と著者はいう。周囲の人々にも執拗な脅しがかけられて、嘘の証言がでっち上げられるのがおそろしい。

 冤罪の証明にはとんでもなく時間がかかる。事件発生から無罪確定までに、冨士さんは32年、青木さんは21年。<どうしたらいいの、何度裁判をしても誰もわかってくれん>とは生前の冨士さんが語ったとされる言葉である。

 冨士さんと青木さんには共通点が多い。ともに離婚経験者で、夜の店で働き、事件に遭遇したとき同居していた男性は戸籍上の夫ではなかった。男社会の住人である警察官や検察官や裁判官の判断を歪める。女性に対する偏見、ジェンダーバイアスも冤罪の発生に手を貸しているのだよ!

週刊朝日  2019年4月12日号