「たくぎん」の名で親しまれた北海道拓殖銀行の経営破綻はバブルの傷跡として多くの人の記憶に残っているだろう。破綻時に頭取を務めた著者が約20年の沈黙を破ったのが本書だ。

 バブルがどのように生成され、崩壊したかについてはこれまで言い尽くされた感があるが、当事者の声はいつ聞いても新鮮だ。拓銀がなぜバブルに突き進んだかを、当時の日本の金融政策を俯瞰しながら丁寧に描く。銀行内部の対立や無責任な経営陣の素顔までさらけ出しており、引き込まれる。

 著者は特別背任罪の疑いで逮捕され、2009年に最高裁で有罪が確定し、1年7カ月刑務所で服役する。大手銀行の経営者の収監は異例だった。「国策捜査」と著者は繰り返し強調するが、克明に記された逮捕、起訴、裁判の過程からはこの国の闇が垣間見える。(栗下直也)

週刊朝日  2019年3月29日号