「れんげ荘物語」シリーズの4作目。家賃3万円の木造ボロアパート「れんげ荘」に住む主人公のキョウコは、かつて有名広告代理店に勤務していた。だが現在は早期退職し、貯金を切り崩しながら月10万円の生活費で、つつましく送る日々が楽しい。一風変わった隣人たちとの交流も魅力だ。

 彼女の楽しみといえば、時々やってくる「彼氏」の「ぶっちゃん」。らしく自由気ままな彼は、勝手に部屋に上がり込む。ゴロゴロと喉を鳴らし、ふてぶてしく畳に寝そべり昼寝を満喫する姿に癒やされる。

「貧乏や不自由は偉大なのね。人間の頭を使わせてくれるのね」。この言葉通り、将来の不安に苛まれて生きるより、心を豊かに今を生きる。本来の人間のあるべき姿を思い出させてくれる小説だ。猫のようにゴロンと転がりながら読むと宜しいかと。(二宮 郁)

週刊朝日  2019年3月22日号