35年間で1万2千回以上の心臓手術を行った世界的に著名な英国人心臓外科医による自伝的エッセイ。

 心臓が右側にある男の子、人工心臓で7年の「追加された」人生を生きた精神分析医、5回も同じ心臓疾患の手術を受けた女性、妊娠中に心臓手術を受け、5カ月後に男児を出産した女性など。胸を切り開き、骨を削りながら、数々の重篤な心臓にメスを入れる。生死の間に立たされた人間の命にどのように挑んできたかを16章にわたって描きだす。

「執刀する私たち医者は、振り返らない。私たちは次へと進む。いつだって、結果がよりよいものになると期待する。そして、決してそれを疑ってはならない」。彼の筆致は自身の的確で、ときに芸術的なメスさばきに似て、この上なくスリリング。優れた小説を読むようだ。翻訳も鮮やか。(福島晶子)

週刊朝日  2019年3月22日号