配偶者が死んだあと、その親や兄弟姉妹との関係はどうなるのか。たとえば夫が死んでからも、舅姑の介護や経済的支援をしなければならないのか。悩んでいる人や困っている人は意外と多い。垣谷美雨『夫の墓には入りません』は、いわばそのシミュレーション小説である。

 主人公の高瀬夏葉子は突然、夫を失う。46歳、脳溢血だった。その途端、夏葉子を困惑させるできごとが次々と起きる。義両親や周囲の人々が、夏葉子に「高瀬家の嫁」を押しつけてくるのだ。

 姑は夏葉子の家に無断で上がりこむようになり、巨大な仏壇が運び込まれる。このまま認知症の舅や引きこもりの義姉の面倒まで見させられるのか。高瀬家の墓碑には夏葉子の名前まで彫り込まれ……。

 コメディ小説であり、デフォルメもされているが、伴侶を亡くした人に共通の問題が列挙されている。2年前に単行本で出たときは『嫁をやめる日』だったが、文庫化にあたって改題して大ヒット。墓問題は深刻だ。

 夫の生前、夏葉子と舅姑との関係は悪くなかった。遺産相続でも揉めることはなかった。しかし息子が死んだ瞬間、夏葉子は「息子の妻」から「ウチのヨメ」にされた。夏葉子個人の人格よりも高瀬家の都合が優先されるようになるのである。

 小説では一枚の紙が夏葉子を救う。姻族関係終了届。配偶者が亡くなった後、その血族との姻戚関係を終了させる届け出である。血族の了解もいらず、いつでも提出できて期限もなし。これで姻族の扶養義務もなくなる。もしものときに備えて、ぜひ覚えておきたい制度である。

週刊朝日  2019年3月8日号