EU離脱を決めたものの、にっちもさっちもいかない英国。だが、あの国はもっと深刻な問題を抱えている。一部の超富裕層による富と権力の独占である。

 オーウェン・ジョーンズの『エスタブリッシュメント』は英国の現状を告発するノンフィクション。

 書名を辞書で引くと「権力機構」とか「支配階級」という語が出てくる。本来、普通選挙がおこなわれる民主制とは相容れないはずだ。ところが彼らは、メディアを巧妙に使い、官僚機構や警察組織すら操って、社会を意のままにする。新自由主義(ネオ・リベラリズム)の信奉者である彼らは、端的にいうならカネの亡者である。

 たとえば、大衆の憎悪が富裕層にではなく貧しく弱い人びとに向かうよう仕向ける。世の中が悪いのは、社会保障制度に頼る困窮者がいるからなのだ、と。

 事態がひどくなったのは、ブレア政権(1997~2007)のころから。ニューレイバーなどと呼ばれるが、要は労働党までが新自由主義に取り憑かれ、エスタブリッシュメントに取り込まれてしまったのだ。富める者はますます富み、しかもろくに税金を払わない。

 読んでいるうちに腹が立って気持ち悪くなった。だが落ち着いて考えてみると、書かれていることは現代日本と似たようなもの。たとえば生活保護受給者叩きなんて、日本とそっくり同じだ。民族差別や人種差別も。世襲議員ばかりの日本は英国よりひどいかもしれない。脚下照顧というけれども、自分の足もとは見えないものだ。他人のふりを見て我がふりを直すために必読の本ではないか。

週刊朝日  2019年2月22日号