超高齢化社会を迎え、日本でも安楽死や尊厳死の議論が高まりつつある。しかしそもそも安楽死をどう考えたらよいのかという人々の問いに根本から応えた本はほとんどない──著者は執筆の動機をそのように語る。本書には安楽死に関する主要な論点が簡潔にまとまっていて、現代人の教養としても必読の内容だ。

 安楽死を合法化した国々(オランダでは2015年の死亡者の約5.6%が安楽死だという)の議論の推移や、日本における公式見解を紹介するほか、ヨーロッパにおける自殺や優生学の思想史を概観する。

 終章では、弱さや依存的な在り方を肯定する新しい人間観を紹介する。人間は「誰もが傷つきやすい存在」であり、支え合いが人類を発展させてきたという論にはまっとうなヒューマニズムを感じる。(石原さくら)

週刊朝日  2019年2月8日号