いつから芸がなくても芸人と名乗れるようになったのか。頭のてっぺんから足の先まで芸に捧げる人間はもはや化石のような存在なのか。月亭可朝、松鶴家千とせ、毒蝮三太夫、世志凡太・浅香光代夫妻、そしてこまどり姉妹の5組の老芸人の評伝だ。

 時には地方の舞台の楽屋で、時には自宅を訪れ、対話を重ねることで、彼らの人生を丸裸にする。いずれも、戦前の生まれだけに、人生への戦争の痕跡を見逃さない。毒を吐きながらも弱者に寄り添う毒蝮の芸風はその典型だろう。

 ひな壇芸人を演じて小金を稼ぐことと対極にいる彼らの生き様は、時代遅れなのかもしれない。だが、非日常を生きる芸人に迎合や忖度は似合わない。芸人の人生を通して、老いながらも職業人としての矜持をどう持ち続けるかに迫った一冊だ。(栗下直也)

週刊朝日  2019年2月8日号