ぼくは昨年の5月に還暦を迎えた。老眼と白内障が進んだり、とっさに人の名前が出てこなかったり、トイレが近くなったり。トシをとったなあ、と思うことが増えた。これからますます老化が進むだろう。元気なうちに片づけなければ、と本と書類でいっぱいの仕事場を見て思う。

 やましたひでこ『定年後の断捨離』は、そんなぼくにぴったりの本である。大ベストセラーになり、流行語にもなった『新・片づけ術 断捨離』(マガジンハウス)が出たのは2009年暮れだから、あれから10年になるのか。

『定年後の断捨離』で、やましたはいう。

<「今」必要としなくなった「過去」のモノに囲まれて、「未来」を描けなくなっている人たちのなんと多いことか>

 無闇やたらとモノを捨てろというのではない。長年のあいだに溜まってきた、澱のような垢のようなモノを捨てようというのである。贅肉落とし、メタボ対策である。そして、自分だけでなく家族にも変化をもたらす「定年」こそ、「不要・不適・不快」に気づき、それらを手放す大きなチャンスなのだ。

 やましたが掲げる「定年後を愉快に生きる5か条」がおもしろい。

1.とにかくモノを減らす
2.主婦を「定年」する
3.家と土地に縛られない
4.新しい友達をつくる

 最後の<5.「そこそこ人生」を断捨離する>はちょっと分かりにくいかもしれない。わたしたちはつい「ほどほど」「そこそこ」と無難な線を選んでしまうが、もっと自由になろうよ、というのである。世間の目なんか、気にすることはないのだ。

週刊朝日  2019年2月8日号