自己責任論が声高に叫ばれる21世紀の日本。「昔は人がもっと優しかった」との声も聞こえてくるが、本書が描き出す明治時代の過酷さを知れば認識が一変するかもしれない。

 江戸時代が終わり、身分制が解体されたことで、人々は職業選択も制度上は可能になった。自由を手に入れやすくなった時代である一方、共同体が崩壊し、むきだしの個人として生きることを求められた。貧富の差は広がり、貧乏なのは本人の努力が足りないと考える「通俗道徳」がはびこった。貧乏人は人間として駄目な存在とみられたのだ。

 不安と競争に晒されることで、人々が自己責任や、貧困層への蔑視を当然のように受け入れる姿勢は現代にも通じる。生きづらさを克服するにはどうすればよいか。本書にはそのヒントが隠されている。(栗下直也)

週刊朝日  2019年1月18日号