もうすぐ終わろうとしている平成がどういう時代だったか? すでに一部では総括めいた議論がはじまっているが、日米安保問題や北方領土問題に象徴されるように、「昭和の戦争」の影がつきまとった30年だったと言えるだろう。

 ノンフィクション作家の保阪正康は「昭和の戦争」を検証するため、文献や資料にあたるだけでなく、40余年の間に4千人近くの人々に会ってその体験や意見を聞いてきた。<史実のひとつひとつには当事者や当事者の近くにいる者だけが理解できる何かが隠されている>と考えての地道な取材は国外にも及び、多くの著作を生みだしてきた。そして今回、保阪はこの『昭和の怪物 七つの謎』を通じて、東條英機、石原莞爾、犬養毅、渡辺和子、瀬島龍三、吉田茂といった当事者たちが残した「歴史の闇」に迫った。

 例えば、<東條英機は何に脅えていたのか>では、保阪はかつては発表できなかった取材メモも紹介しながら、<戦争とは精神力の勝負>と主張する東條の内面を明らかにしていく。戦争続行が不可能な状態でも敗戦を認めない当時の軍人の、余りに非知性的な精神論。その一方で、東條とはまったく異質の軍人だった石原莞爾にも迫り、彼らの間に蠢(うごめ)いた闇に光を当ててみせる。

 戦後73年が過ぎ、平成が終わろうとしている現在でも、昭和の謎は残っている。同時代の中では見えなかった歴史の断面は、保阪のこうした活動が証すように、後々の取材によって明らかになっていく。これから平成という時代をふり返るとき、この本は、多くの問題の源を知る貴重な資料となるだろう。

週刊朝日  2018年12月7日号