あなたが食べているアワビの二つに一つが密漁品と聞いたら驚くだろう。アワビだけでなく、ナマコもウナギも、違法に取引されたものを我々が知らず知らずのうちに胃袋に収めていることを本書は嫌と言うほど示している。

 著者は丸5年にわたり、国内外の、密漁の臭いがする現場で取材を重ねた。築地の仲卸にバイトとして潜入したり、ウナギの稚魚の養殖現場に出向いたり。そこには必ず暴力団の影が見え隠れした。

 消費者が安さを求めるがために、密漁は横行し、それが当たり前になり、不正に対して漁業関係者の感覚も麻痺していく。関係者が実名で告発する場面もあり、著者の粘り強い取材の痕跡もうかがえる。いびつな構造の深部に大手メディアは決して触れようとしなかった。著者の行動力にただただ敬服する。

週刊朝日  2018年11月9日号