2016年春、都内のマンションで東京大学の学生5人による強制わいせつ事件が起きた。報道直後からSNS上では被害者の女子大学生が非難されてしまう。本書はこの事件に着想を得た小説だ。

 被害者は横浜市内の普通の家庭で育ち、女子大学に進学。東京・広尾の申し分のない家庭で育った東大生と出会い、恋に落ちたはずだったが……。学歴をめぐる歪んだコンプレックスと優越感、「高学歴」であるだけで許される空気感。それらが醸成される経緯が、2000年代以降に流行した若者文化に縁どられて描かれる。

 東大生たちは自分を悪人だと思っていない。だが、悪人でないからこそ、無自覚かつ残酷に他人を見下してしまう。私たちは「勝ち組」になれば、幸せな人生を送れるのか。小説が問うていることは重い。

週刊朝日  2018年11月2日号