監察医として2万体の遺体の解剖と検死を行った著者は、執筆やテレビ出演で法医学の知名度を高めた立役者でもある。89歳になる今年、14歳に向けて生きる意義を語りかけた本作を上梓した。

 著者は人間の平等について多く頁を割く。医師として貧しい無医村に住んだ父親の「医は仁術である」との言葉が指針となっているという。「人は人であって、皆が同じなのである。ひとつひとつが大切な命なのだ。ゆえに私は、死んでからも、名医に診てもらわなければならないと、もう長い間、言いつづけている」。その信念はいじめや虐待を憎む。老人の自殺についても「自殺は他殺である」と説き、家族の冷たさこそ耐え難い孤独だと述べる。

 戦争の記憶や妻を看取った経験など、人生の重みのこもった言葉は誠意にあふれている。

週刊朝日  2018年10月26日号