NHKの名キャスターである著者が、番組のための海外取材をもとに書き下ろしたルポ。トランプ政権の誕生で揺れる北朝鮮やメキシコをはじめ、欧州のポピュリズム旋風の内実、カザフスタンと日本の知られざる関係などが生き生きと描かれる。

 読んでみると、本書はテレビで見る著者の印象そのままだ。情熱を持ちながらも冷静な筆致。各国の状況を俯瞰しつつ、著者が肌で感じた小さなエピソードもはさみこむことで、政治がぐんと身近に感じられる。遊牧民のテントで夜を明かすなど、著者の体当たりの取材の様子も興味深い。

 また本書で特筆すべきは、ある女性の追悼記事だ。異国の地インドネシアで若くして亡くなった女性の足跡をたどるこの部分が最も情緒的で、それがまた著者の人柄をしのばせる。

週刊朝日  2018年8月3日号