偉人でも有名人でもないが、会話したことが心の支えになっていく人はいる。ここに出てくるナスミもそんな存在だ。

 全14話の連作長編小説。ナスミの同僚だった女性が、堕胎させられた男の口利きで就職した後、ナスミが入院する病院を訪れ、「かわりに、仕事をもらった」「子供をお金にかえた」と告白する。これに対し「お金にかえられないもので返すしかないじゃん」と背中を押す第8話がいい。

 東京からUターンし、実家の商店を継いだ女の43年間をたどる。臨終から葬儀へ。ナスミの姉妹、夫、中学のときに一緒に家出するはずだった男らが、ナスミ語録を披露する。ゲラゲラと笑う彼女を知る者たちが、通夜に会したかのようなにぎわいと、ちょっぴりのかなしみ。各話の冒頭の頁に描かれたイラストもいい。

週刊朝日  2018年6月29日号