野末陳平の名を聞くと、時代の流れに調子よく乗っかり、芸能界やマスコミ界、政界を渡り歩いた人物、そんな印象を持つ人が多いだろう。しかし、本書を一読すると、そのイメージは払拭されるはずである。

 各界で話題を振りまいてきた生き様の裏側には、数々の苦労、様々な気配りがあった。意表を突く演技も必要だった。サブタイトルに「あの世に持っていくにはもったいない」とあるように、一つ一つのエピソードが上から目線でなく、感謝の言葉も涙と笑いを交えて素直に語られていく。

 登場する人物も多彩で、中曽根康弘、小池百合子、永六輔、野坂昭如、本田宗一郎、乙羽信子、丹波哲郎、みのもんた、高田文夫らのべ70人を超える。中でも最も読ませるのは立川談志とのヘンテコながらも哀愁に満ちた親友関係の逸話だ。

週刊朝日  2018年6月22日号