1989年6月4日。世界を震撼させた天安門事件が中国で起きた。本書ではデモを率いた学生リーダー、学生たちに共感していた教育者など約60人の当時と今を追う。

 国外に逃亡し、無力感を味わいながらも、建前の民主化を唱え続ける者もいれば、経済成長を追い風に、成功者となり、今の体制も悪くないと日常生活を送る者もいる。一方、事件当時は運動に無関心だったものの、民主化運動にのめり込み亡命まで余儀なくされた労働者も。著者は、事件に人生を翻弄されながらも、それを受け入れていく彼らの心の機微を逃さず描く。

 世界第2位の経済大国となった中国だが習近平体制になり、言論統制は厳しさを増す。民主化の道程は険しくなり、「八九六四」に思いを馳せることも難しくなっている今、本書の意義は大きい。

週刊朝日  2018年6月22日号