隠したり改竄したりと、地上のことがあまりにもバカバカしくなって夜空を見上げる。こんな世界にオサラバして、宇宙に行きたいぜ。

 そんな気分でいたら、すごい本に出会った。小野雅裕の『宇宙に命はあるのか』。著者はNASAの研究機関で火星探査ロボットを開発している。1982年生まれの若手だ。

 SFの父、ジュール・ベルヌが宇宙に行くことを夢見た1840年から現代までを一気に語ってしまうのである。その語り口が見事だ。人類を月に送り込んだサターンVロケットの開発者、フォン・ブラウンを「宇宙時代のファウスト」と呼び(若き日の彼はナチス・ドイツで弾道ミサイルV2をつくった)、月面着陸を可能にした無名の技術者について書く。宇宙にとりつかれた人びとの、なんと魅力的なことよ。

 木星や土星、天王星、海王星を旅するボイジャーのしくみや、著者が従事する火星探査の実際など、どれもおもしろいことばかりだ。理系センスがゼロのぼくにも理解できた。著者は天才だ。

 後半の地球外生命(宇宙人)を探す旅の話になると、ぼくの興奮は頂点に達した。

「何用あって月世界へ」という山本夏彦のことばがある(初出は「週刊朝日」だ)。用があるから宇宙に行くのではない。宇宙とその歴史を探り、地球外生命を探すことは、ぼくら自身の存在理由を解き明かすことにつながるのである。

 宇宙に行くには莫大なお金がかかる。その技術を軍事に悪用する政治家たちもいる。それでも、宇宙への挑戦は続けたほうがいい。知りたいと思うのが人間だから。

週刊朝日  2018年4月27日号