つげ義春の旅漫画の世界に迷い込んだかのような山間の風景。新潟県村上市山田。山形との県境、19戸が暮らすマタギの村を撮った写真集だ。

 猟はチームで行う。雪山を一列、等間隔で行く。双眼鏡を手にひとかたまりとなって待機する。獲った熊はその場で解体し、取材者にまで均等に分配されるという。皮を剥がれたばかりの熊のデスマスクを凝視。漆黒の中に光る白い牙。白黒のフィルム写真ならではの、目を逸らすことを許さない迫力だ。成果主義の対極をゆく分配ルールも、共同作業を余儀なくされる寒村だからこそ生まれた寛容さなのだろう。

 和むのは、白無垢の花嫁を迎える祝言の日に、障子の向こうから覗き込んでいるオッカアたちの顔だ。山に入るのは男衆のみ。残された女衆の暮らしを撮った写真も、またいい。

週刊朝日  2018年4月13日号