成功を収めながらも、全財産を失い、右肺の3分の1も失った著者。自らの体験に文化人類学や歴史学の知見を取り込みながら展開する贈与論は新鮮だ。

「カネが全て」とは誰もが思っていないが、カネがないと生きていけないのも21世紀の現実だ。我々はカネを追い求めることを考え続けなければいけないのか。

 著者は「これしかない」という思考の硬直性こそ危険だと指摘し、「楕円」に生きようぜと投げかける。等価交換か相互扶助かなど単純な二元論ではなく、自分の中に単一ではない二つの焦点を持つことで他者に感情移入でき、関係性も変わる。評論家の花田清輝の「楕円幻想」の有効性を説く。

 現代日本は貧富の格差が広がりながらも、自己責任など極端な議論がはびこる。本書が処方箋になるかもしれない。

週刊朝日  2018年3月9日号