昨年2月に他界した谷口の絶筆遺作である。巻末の追悼文で、欧州では小津安二郎以上に尊敬されたと、仕事を共にした関川夏央が書き、病院に日参した編集者が闘病中の様子を綴る。

「風景が持つ感情」を語らせたいとの構想で描いたという第1話「森の声」は、母の郷里に引き取られた10歳の少年「わたる」が「森」へと誘われるまでを収録。山村の子供たちに挑発されて大木を登るシーンは、登山漫画を彷彿させる。惜しくもカラー絵はここまで。

 第2話は「発掘」と題され、ネームと呼ばれる台詞とラフだけで展開される。本来一般読者が目にすることのないものだが、描こうとする強い意志が伝わる貴重なものだ。並行して描かれた薄墨を使った短編集『いざなうもの』(小学館)と併せて読んでいただきたい。

週刊朝日  2018年2月16日号