夫の祖父が足を骨折して療養する間、留守宅である都営団地に住む39歳の女性「千歳(ちとせ)」の目線で語られる物語だ。

 終戦の年に15歳だった祖父勝男は、団地の造成から見てきた。老いを迎えた勝男から、ある人捜しを依頼された千歳は、35棟もある団地内を探索し始める……。

 陰の主人公は勝男だ。恋は実らずとも、喜怒哀楽を共にし家族のつながりを築いてきた「昭和」を丁寧に描く。冒頭のシーンが後半、ジグソーパズルのピースのようにはまっていく展開も見事だ。書名には、扉で区切られた数多の暮らしと、主人公の心の扉の両方の意味を込めたのだろう。ところどころ段落と段落の間に挟まれる2行分の空白が暗転効果をなし、一度しか登場しない匿名の人物たちにも心を惹かれる。この世界にとどまりたくなる力のある小説だ。

週刊朝日  2018年1月26日号