かつて朝日新聞の名記者として活躍した外岡秀俊氏の、中原名義による小説集。四つの連作形式で、第二章のみ1986年に発表され、その他三つは今年、第二章の前後につながる作品として書かれた。

 報道カメラマン矢崎晃を主人公とし、彼の人生の葛藤を描く。またそこに戦争の歴史が重ねられ、満蒙開拓団やコソボ紛争の現場が臨場感をもって描かれる。全章にわたり作者の報道の経験が存分に生かされているのだが、第二章はやや毛色が違い、私が最も好きなのもこの章。矢崎が仕事に忙殺され家庭不和になっていく様子が、日常に潜む不穏なものの描写によって見事に表現されている。職場にかかってきたいたずら電話、気晴らしに作ったはずの庭の池から発生する大量の蚊。それらは矢崎の心を侵食し、彼を不安に陥れていく──。

週刊朝日  2017年12月29日号