開口一番、皮肉な一言から本書ははじまる。〈本を出す新聞記者。正直言って好きではない。/本書いている暇があったら新聞に書けよ、新聞記者なんだからさあ〉。しかし彼女は本を出してしまった。

『仕方ない帝国』は、朝日新聞きっての名コラムニスト・高橋純子記者の初の著書。政治部次長時代(2016年3月~17年9月)のコラム「政治断簡」を中心に、書き下ろしやインタビューを加えた一冊で、先週ここで紹介した望月衣塑子『新聞記者』とはまた別の個性が息づいている。

 高橋の持ち味は、なんといっても新聞記者らしからぬ奔放で威勢のいい筆致である。〈中学生みたいな文章を載せるな〉〈次長ともあろう人がなんて下品な〉と意見されても、ひるまず〈既成の型に入れられて保身するなぞまっぴらごめん〉〈誰かにとって都合のいい私なんかになる必要は、ないのだ〉と走り続けた結果……。

 安倍政権の手強さに言及しつつ〈しかし本当にコワいのは、そんな首相と相対する側の「負け癖」だ〉と指摘する。野党党首の迫力不足な質問に業を煮やし〈負け癖を払って野性を取り戻せ。まずは腹から声を出すのだ〉と叱咤する。安倍首相とトランプ大統領の共通点は人を「嗤う」点だと喝破して〈嗤われたら笑い返せ〉とけしかける。カジノ法案に対しては〈政治って、ひとの不幸をできるだけ小さくするためにあるんじゃないの? 誰かの不幸が前提の経済成長って何?〉とストレートな問いを投げかけ、ツタヤ図書館の空疎さを〈安倍政権が民を扱う手つきに似てる〉と批評する。

 紙面で読んだときにもオオッと思ったけど、まとめて読むとよくわかる。彼女のコラムは「安倍一強」の政治に揺さぶりをかけるアジテーションなんですよね。

〈仕事をしていると、魂を売るかどうか迫られる局面が少なくない〉が、〈踏まれても蹴られても、穴の中でだって書き続ける〉と宣言。〈エビデンス? ねーよそんなもん〉。中立公正、謹厳実直を求められる新聞記者が、これをいえるってスゴイです。

週刊朝日  2017年11月24日号