アフロヘアで知られる元朝日新聞記者が、自身の「使わない生活」を綴ったエッセイだ。東日本大震災をきっかけに「個人的脱原発計画」に挑戦し始めた著者。家中のプラグをすべて抜き、現代の暮らしに不可欠と考えられるテレビ、冷暖房、掃除機……といったモノたちを次々に手放してゆく。

「不便」と眉をしかめるなかれ。テレビをなくすと虫の声が聞こえ、冷房をなくすと暑さのなかにも涼しさを発見──何かをなくすことで、著者はそれまで見えなかった別の世界との出会いを続けざまに経験する。

 後半では、モノに囲まれていたかつての自身を「チューブにつながれた重病人」と回想。便利さの追求とは、すなわち「生」を手放すことでは、と問いかける。クリティカルな言葉が、読み手を揺さぶってやまない。(松岡瑛理)

週刊朝日  2017年11月3日号