表紙は軽妙、中身は骨太な同名映画の舞台裏ノンフィクション。

 紀伊半島南端近くの小さな漁師町が世界に知られるようになったのは、映画「ザ・コーヴ」から。イルカの追い込み漁を行う和歌山県太地町に、野蛮だ、やめろ、と押し寄せた反捕鯨団体。苦慮する漁民や町長。カタコト英語で仲裁に入る政治活動家。取材で訪れて町に定住した元AP通信記者。一人ひとりにマイクを向ける。

 牛や豚の食用を認めながらクジラは「可哀想」と感情を露にする反捕鯨派と、「伝統」を主張する捕鯨派。ぶつかり合う根底にあるものは何かを考えてゆく。著者は米国在住の映画監督。独立した立ち位置が、単純な「正義」に偏らない思考を支えている。「戦争とはこうして始まるのだ」という最後の一文が衝撃的だ。

週刊朝日  2017年10月27日号