東京の下町の商店街に生まれ育った著者のエッセイ集。「溢れているのは、人情味ではなく、人間味」だと断言する。例えば小学生の頃、文房具屋で商品を見ながらしゃがみこんでいると「買うの、買わないの?」とハタキで追い払われた。お目当てのイチゴの匂いの消しゴムはお金がないから触るだけ。子供心に不機嫌な店主の顔が刻みつけられている。一方、愛想が良いのはパン屋や肉屋だった。

 そんな昔話に母が平然と一言。優しかったのは自分の家が工場を営み、工員さんの三食用に大量に買い込む上客の子だったからだ、と。感傷を打ち砕くのが面白い。
 写真家でもある著者は、立ち位置で見える「世界」が変わることも語る。表題は「シマウマ柄のシャツにヒョウ柄のスカーフのおばあちゃん」についての考察がもとになっている。

週刊朝日  2017年9月8日号