「のらもじ」とは何か? それは街なかにひっそりとある看板文字のこと。古くからある喫茶店や理容室などの看板に用いられた愛嬌のある文字を収集し、それをもとに五十音の「字体」を創作する。これが「のらもじ発見プロジェクト」である。

 本書で私がもっとも魅かれたのは、著者がそれぞれの店の人にインタビューをしている部分だ。開店当時の思い出や店名の由来、看板の文字のデザインにどんな意図があるのか、などなど。読んでいると、今は古びて冴えない店にもいきいきとした若い時代があったことが想像され、自然と店主の人生にまで思いを馳せていたのだった。

 本書における試みは、デザインという領域から街を眺めることを足がかりにして街の記憶を掘り起こす社会学なのである。

週刊朝日  2017年8月4日号