就職氷河期も今は昔。新卒採用は売り手市場で、有効求人倍率はバブル期をしのぐ。だが、本当に好況なのか。統計では見えない市場の歪みを本書は炙り出す。

 著者は親の介護のためにテレビ局を辞め、多くの労働現場で非正規社員として働く。そこに横たわっていたのは正社員と非正規社員の分断だ。例えば、倉庫内の運搬作業では「使えねえなあ」と正社員は派遣社員を罵りながらも、仕事を手伝うことはない。業務改善の視点はなく、全体の効率が悪化しても誰も気にしない。あるイベントの現場では、正社員が著者に休憩も取らせず、自発的に帰るように仕向ける。賃金を要求すると「払うわけねえだろ」と切り捨てる。もちろん、違法だ。

 本書では社名も記されているが、有名企業が労働者を追い込んでいる実態にはただただ驚く。

週刊朝日  2017年8月4日号