大阪の同和地区で食肉卸を営みながら成り上がった男の評伝だ。勝ち気で短気で猪突猛進。筋が通ってなければ、刃物を持ってヤクザにも立ち向かう。登場人物の息遣いが聞こえ、路地の臭いや色彩まで浮かび上がってくるのは、その男が著者の父親だからだろう。

 男の生きざまは、金の前では思想や信条などが非常に軽いことを教えてくれる。60年代、経済成長と部落解放運動の高まりに伴い、同和利権は急拡大した。男は共産党、右翼、ヤクザと共闘し、部落解放同盟から利権をもぎとる。「人権」「解放」とそれぞれが高邁な理想を掲げていても、共産党と右翼が金のためには手を組む現実が横たわっていたのだ。

 同和地区への差別は根強い。だが、男が言うように「金さえあれば差別なんてされへんのや」もまた真理だったのだ。
 
週刊朝日  2017年7月21日号