過去の偉人たちには歌作・句作がつきもの。しかし道楽と侮るなかれ、その作品はふとした形で、歴史の深淵に触れることもあるのだから──。時代小説を精力的に発表してきた著者が、戦国武将たちの辞世や発言に触れ、それぞれの夢や人生、秘密などを探る。

 伊達政宗の詩に隠されたのは、生まれた時が遅すぎたために天下統一を逃した無念であるという。一方、織田信長は時運には恵まれながら人望には恵まれず、その要因は彼の残した手紙に端的に表れているとみる。白眉は豊臣秀吉の辞世。晩年に生まれた後継者秀頼が実子ではないという説を参照しながら、歌に隠れた彼の苦悩を考える。個々の武将について単体で取り上げるのではなく、それぞれの関係性を整理した上で語られているため、読者の好みが試されるようで興味深い。

週刊朝日  2017年7月14日号